第20話
時計を確認すると、もうそろそろ夕方だった。
わたしの仕草を見てそのことに気づいた空は、観覧車を指差す。
「最後は、あれにしましょう」
「王道だね」
「王道が一番いいんですよ」
大きな観覧車まで手を繋いで歩いて行った。
あまり混んでいなくて、それほど並ばずに順番がやって来る。
「隣に座ります?」
「嫌だ。バランス悪いし、君は反対側に座って」
「まあ、そうなりますよね」
わたしたちが乗り込むと、ゴンドラがゆっくりと上昇していく。
わたしたちは外を見つめた。
ちょうど夕日に染められた街が、どこまでも見える。
「あ、先輩の家が見える」
「本当だ。君の家は見えないの?」
「えーっと……あ、見えました」
「どこ?」
「とうとう僕に興味を持ってくれましたね」
「違うから。やめて」
窓に張り付いて、見慣れたはずの街並みを上空から眺めた。
わたしが通っている大学も、空の通う高校も、昔通っていた中学校も小学校も、すべてが見える。
わたしたちが一緒に帰ったり、口喧嘩をしたり、買い物をしたりしている光景も、その時この観覧車に乗っていた人たちからは全部見えていたのだろうか。
「そう言えば、あの女の子にはちゃんと謝った?」
「ああ、白川ですか?」
「そんな名前だった」
外を見ながら彼に尋ねると、苦笑しながら答えが返ってきた。
「謝りましたよ。先輩に言われた通り。それで、もう一度ちゃんと断ってきました」
「そっか」
わたしは、性格が悪い。
空のことが好きじゃないくせに、他の女の子には彼のことを諦めさせる。
空と恋人になるつもりはないくせに、こうやって何度もデートを繰り返す。
だけどそれももう、今日で終わりだ。
「せっかく二人きりで観覧車の頂上にいるのに、他の女の子の話、しちゃうんですね」
彼にそう言われて、ちょうど頂上にいることに気づいた。
観覧車の頂上でキスをする、なんて遊園地デートの定番だけど、わたしたちは何もしない。
「酷い?」
「そうですね、少し」
「こんなわたしを好きになったのは君の方だよ」
「分かってます。咲彩先輩はそういう人です」
夕焼けを眺めながら、ゴンドラが一番下まで下りるのを待つ。
わたしは窓の外から視線を外さなかった。
だけど、空がずっとわたしの横顔を見ていることには気付いていた。
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