第12話
ランチを終えてからは、ウィンドウショッピングをして歩いた。
秋服を見たり、雑貨屋であまり高くないアクセサリーを見たりする。
全部わたしの用事だったけど、空は横から口を出しながら付き合ってくれた。
「このネックレス可愛い」
「買いましょうか」
「いい」
わたしが何かに目を付けるたび、彼は「買いましょうか?」と言ってくる。
高校生に買ってもらうわけにはいかないので、わたしはそこまで興味がないふりをした。
さっき見た店のカーディガンは本当に欲しかったから、あとで一人で来たときに自分で買う予定だ。
「あ、ピアス欲しいな」
ピアスの棚の前で立ち止まると、空はわたしの耳を凝視した。
「それ、イヤリングじゃないんですね」
「ピアスだよ。卒業してから開けたの」
「咲彩先輩の体に傷が……」
「時代錯誤よ」
目に留まった可愛いピアスを二つ手に取る。
どちらか一つだけ買おうと思うのだけど、どっちも可愛くて選べない。
「これとこれ、どっちが良いと思う?」
「どっちも似合ってます」
「使えないな」
空に選ばせるのは諦めて、鏡の前で自分の耳にあてて見る。
その横で、彼は他のピアスの値段を確認していた。
「買うんですか?」
「どっちかだけね」
「じゃあ片方は先輩が自分で買って、片方は僕にプレゼントさせてください」
ここまで悩んでおいて、やっぱり興味がない、という嘘は通らないだろう。
わたしは改めて二つを見比べる。
「悪いよ」
「今日デートに付き合ってくれたお礼です」
朝から叩き起こされて、楽しかったとはいえ彼に連れ回されたから、このくらいは許されるかな、と思った。
それでわたしは渋々頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
空は笑顔で、わたしの手から片方だけピアスを受け取る。
「買ってきますね」
「ありがとう」
彼が会計を終わらせてから気づいたことだけど、彼が買ってくれたの方が少しだけ値段が高かった。
空がそこをちゃんと考えていたのかは分からないけど、これは借りにしておこうと思う。
買い物を終えると、空に送られて家まで帰った。
わたしとしては現地解散でも良かったのだけど、彼が譲らなかったのだ。
「君の家ってどの辺なの? わざわざ送迎付きじゃなくても良いよ。面倒でしょう」
「面倒じゃありませんよ。もし帰り道で咲彩先輩に何かがあったら、って考えると怖いので」
「何もないって。大丈夫だよ」
「でも僕が心配なんです」
もし彼が電車を使うなら、無駄に電車代を払わせてしまっていることになる。
恋人になる望みのない女に、そこまで金を掛けさせるのは申し訳ない。
「ねえ、暇なの?」
「暇ではないです。受験生なので」
そうだ、忘れていたけど、彼は受験生だった。
それなら余計に早く帰ってほしい。
わたしのせいで志望校に落ちたなんて言われたら、たまったものじゃない。
「わたしにこんなに時間を割いていいの?」
「いいんです。好きなので、先輩のことが」
「出た」
「出た、ってなんですか。人の告白をまるでお化けのようにl
家の前についたのは、まだ日も落ちない時間だった。
随分と健全な「デート」だ。
「わざわざ送ってくれてありがとう」
「僕が好きでやっていることなので、気にしないでください」
「それと、今日は楽しかった」
そう伝えると、空は意表を突かれたように言葉を失った。
少しだけ赤くなった顔が珍しくて、わたしは思わず彼のことをまじまじと見てしまう。
「ちょっと、あんまり見ないでください」
「珍しくて、つい」
「格好悪いじゃないですか。それに、珍しいのは先輩の方ですよ」
楽しかった、と言ったことだろうか。
事実だから言っただけだ。
「楽しんでくれたみたいで、良かったです」
「うん」
「次は、どこに行きましょうか」
「次もあるの?」
「あります」
わたしはうんざりした顔をして見せる。
だけど空には通じない。
彼は笑顔で手を広げた。
何だ? と思った時にはもう遅い。
わたしは彼の腕にぎゅっと抱きしめられてしまった。
「あんた、ちょっと調子乗りすぎ!」
「咲彩先輩、またデートしましょう。次も絶対に楽しませますから」
「分かった。分かったから、離れろ」
わたしがどれだけじたばたと暴れても、空はびくともしない。
あの筋肉質な腕は、見掛け倒しではないようだ。
「それから、好きです」
そう言って、空はわたしを離す。
わたしは一歩距離を取った。
「先輩、今日一日で少しは僕のこと好きになってくれました?」
「ううん」
「そうですか」
空はまるで落ち込む様子もなく、わたしに手を振る。
わたしも手を振り返すと、嬉しそうに帰って行った。
奴の脳内は、わたしには理解不能だ。
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