第43話

その日の放課後、学校から出たわたしは帰り道とは反対方向へ歩き出した。

メモ用紙に殴り書きした住所をスマホの地図で調べながら足を進める。


真っ直ぐ行ったら、次の信号は右。そうしたらコンビニのある角を左に曲がって、しばらく真っ直ぐ。

家からそう遠くないけど、用がないからあまり来たことがない場所だ。

火影先輩はいつも、こんな景色を見ながら登下校していたのか。

この景色を目に焼き付けたかったけど、道がよく分からないからまるで迷路だ。


そうこうしているうちに道を間違えたような気がする。

ちゃんと地図を見直そうと、わたしは歩道の隅に立ち止まった。

すると、俯いてスマホを見るわたしの上に影が落ちる。



「神山詩乃、見ーつけた」



背筋に悪寒が走った。

わたしは相手から距離を取るように飛び退けながら、勢いよく振り返る。

そこに立っていたのは、いつも通り機嫌の悪そうな表情をした宮城先輩だった。


「なんだ、先輩でしたか……」

「なんだ、じゃねぇよ。お前、なんで一人で歩いてんの? 昨日、俺の話ちゃんと聞いてた? まだ一日しか経ってないんだぞ」

「聞いてました。それに、隠れて宮城先輩がついて来てくれていることも気づいてました」

「人のことをストーカーみたいに言うな」


そう言いながら、否定はしない。

今日、宮城先輩が学校に来ていると知って、両親に迎えはいらないと連絡をした。

先輩には図々しいとまた怒られてしまいそうだけど、今日だけでも力を借りないと寄り道が出来ない。

未だ図太いわたしが何も変わっていないように見えたのか、先輩は呆れたように息を吐いた。


「で? 真っ直ぐ家に帰らず、どこに行こうとしてたんだよ」

「火影先輩の家です」


分かっているくせに尋ねてきたから、わたしも正直に堂々と答える。


「お前、あいつん家どこか知ってたんだな」

「ううん、知りませんでした。今日、教えてもらったんです。入手ルートは秘密ですけど」


わたしは宮城先輩の目を真っ直ぐに見上げた。

珍しく、先輩が驚いたような顔をしている。


「決めたんです」


昨夜、眠れなかった時間を無駄には過ごさなかった。

考えを一つ一つ整理して、ちゃんと答えを導きだしてきたのだ。


「火影先輩との関係を変える決心を固めました。だから、会いに行きたいんです」


嘘や、思い付きや、脆い決意なんかじゃない。

そんな思いを込めて宮城先輩の目をじっと見ると、先輩は諦めたように肩をすくめた。


「俺、お前のこと誤解してた。訂正するわ」


そして鼻で笑いながら言う。


「お前は優等生なんかじゃない。ただの馬鹿だ」


ようやく理解していただけたようで、嬉しい限りだ。

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