第24話

電話を終えた後は、それ以上スマホが鳴ることはなかった。

あれで正解だったようだと一安心して、残っていた課題を片付けた。

これでもう何も気にせずに休日をエンジョイできるようになったわたしは、少し早めに昼食を取ってから出かけるための支度をして家を出た。


参考書も買わないといけないし、好きな漫画の新刊も買ってしまおう。

あとは洋服とかアクセサリーとかコスメもチェックして……。

頭の中で予定を立てながら、繁華街へ向かうために住宅地を抜けて大通りに出る。


そしてふと顔を上げ、頭を抱えた。


「やっほー、詩乃ちゃん」


そこに、北村先輩がいたのだ。

道路脇にある柵に腰かけて、右手でスマホをいじりながら左手でこちらに手を振ってくる。


そこでやっと、自分の失敗に気づく。

何で出かけるなんて言っちゃったんだろう。

そんなこと言ったら、待ち伏せされるに決まっていたのに。

この人がサイコパスだということを忘れていた。


わたしがひたすら過去の自分を責め続けていることなんて気にせず、先輩はわたしに近づくとにこやかに口を開く。


「私服見るの初めてだよね。めっちゃ似合ってるよ。超可愛い」


そういうことを先輩が恥ずかしげもなくさらりと言うものだから、近くの通行人がちらりとわたしたちの方を見る。

何も知らない人からすれば、デートの待ち合わせにしか見えないのだろう。

違いますから! と大声で叫びたい衝動に駆られながら、わたしは北村先輩を睨みつけながら言った。


「帰ってください」

「嫌に決まってんじゃーん」


あはは、と無邪気な笑顔で、わたしのお願いは一蹴されてしまった。


ズキズキと痛みだした頭を押さえながら、わたしはどうやって逃げればいいかを考える。

しかし、まるでそれが無駄だとでも言うかのように、先輩が手を繋いできた。


「さあ、デートしよっか」

「嫌です。帰ります」

「え、お家デート? やだ、詩乃ちゃん積極的!」

「あんたは自分の家に帰るんですよ!」


ここでわたしが家に帰ったら、先輩は絶対についてきて、わたしの家がバレてしまうことになるだろう。

それを避けるために出かけても、勝手に先輩がついてきて、疑似デートのようになってしまう。

ということは、ここで先輩を振り切れたら一番良いのだけど、逃げ切れる自信が全然なかった。


「別にデートって言っても、俺が詩乃ちゃんの用事に一緒に行くだけだからさー。ね、いいでしょ?」

「後日、改めます」

「あはは、帰るって言うなら今ここでキスするよ」

「いつも二択のふりして一択しかないの何なんですか!?」


笑顔で物凄く怖いことをあっさりと言う。

まるで魔王のようだ。


「わたしに拒否権はないんですか?」

「ないよ、先輩命令だから」


抗議はあっさりと却下され、北村先輩はじりじりとわたしに近づいてくる。

キスだけは何としてでも避けたかったわたしは、咄嗟に別の選択肢を選んでしまった。


「……一緒に行けばいいんでしょう」


嫌々そう言うと、先輩は満足そうに微笑む。

いつもこの人の思い通りになってしまう、意志の弱い自分が嫌いだ。

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