第20話
その翌日は降水確率0%の、綺麗な晴天だった。
そんな中で傘を持って歩くのは気恥ずかしいけど、それは我慢して学校まで行く。
いつもより少し早く来たからか、毎朝わたしを待ち構えている北村先輩もいない。
ほっと安堵しながら、わたしは三年生の傘立てに先輩の傘を差し込んだ。
そして北村先輩の靴箱に、前もって用意していたメモ用紙を放り込む。
そして先輩が現れる前に急いで教室に向かおう、と振り向いた瞬間だ。
「ひいっ!」
そこには、完全に気配を消した北村先輩が笑顔で立っていた。
わたしは思わず後退りするも、30cm後ろには靴箱があってすぐに背中がついてしまう。
横から逃げようと思った瞬間には、思考を読まれたように顔の両脇に手をつかれ、もう逃げられない。
「おはよ、詩乃ちゃん」
笑顔なのが、逆に怖すぎる。
「……おはよう、ございます」
「何してるの? あ、もしかしてラブレター?」
先輩はわたしが入れたメモ用紙を手に取ると、それを開いて読み上げた。
「『傘ありがとうございました。神山』だって。ふうん、そっか」
北村先輩はぐいっと顔を近づけてくる。
わたしは全力で横を向いて顔をそらした。
「まさかこれで終わらせるつもりだったなんて言わないよねー?」
「あはは……」
「俺のところまで返しに来てくれる約束だったじゃん。破るなんて酷いなぁ」
だって、自分から会いに行くなんて、死んでもしたくなかった。
だからこうやってわざわざ朝早く来て回避しようと思ったのに、どうしてこの人はいつも最悪のタイミングで現れるのだろうか。
わざとらしく落ち込んだような表情をした北村先輩は、指先でわたしの頬をつんつんと突く。
どうやって、この状況から逃げだせばいいんだろう。
わたしが必死で考えているのなんて関係なく、先輩はニコッと笑顔を浮かべて言った。
「ということで罰ゲームです」
「え?」
そんなの聞いていない、と反論しようと、わたしは視線を先輩に向けた。
はずだった。
「え、待って! 何これ!? やだ、何してるんですか!?」
明らかに視界の高さがおかしい。
抵抗する間もなく、わたしは先輩の肩に担ぎ上げられていた。
周りにいた人たちがぎょっとしたようにわたしたちを見ている。
「怖い怖い! 降ろしてください!」
「ダメだよー。罰ゲームって言ってるじゃん」
暴れたら落ちるんじゃないかと思うと、怖くて抵抗することもできない。
ついでに、スカートの中が見えないか、ということも気が気じゃない。
わたしが混乱している間に、先輩は平然と歩きだした。
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