第14話
朝も昼休みも放課後も、先輩がわたしの前に現れなくなると、それはそれで周りは違和感を感じるようだ。
先輩が付き纏い始めた時も「あいつは何をやらかしたんだ」とこそこそ囁かれたけど、来なくなっても同じことを囁かれる。
どうしてわたしが起因だと思うんだよ。
苛立ちはするけどそれもすぐに収まるだろうと思って、わたしは今までのように休み時間をクラスメイトと平和に過ごすことにした。
最近では、見た目はギャルだけど何だかんだわたしを心配してくれる前の席の子と、その子の友達が昼ご飯に誘ってくれる。
今日もその三人で机を囲んでいると、菓子パンをかじりながら彼女がぽつりと呟いた。
「来ないね、北村火影」
昼休みが始まって10分。
今までは開始を告げるチャイムとほぼ同時に現れていた北村先輩が、10分を過ぎても現れないということは、今日もわたしの元へは来ないということだ。
わたしにとっては嬉しいことなのに、と思いながら苦笑して答える。
「飽きたんじゃない?」
「えー、突然過ぎない?」
わたしの適当な返事を聞くと、彼女は不満げな表情になった。
彼女の友達が「別にあんたの彼氏じゃないから」と突っ込む。
わたしの彼氏でもないけど。
「でも少し見直したと思ったんだけどな」
「見直した?」
「案外悪い奴じゃないのかも、と思って」
それを聞いて、わたしは弁当を食べていた箸を止めた。
「うちらだって神山ちゃんとかと比べたら、そりゃヤバいけどさぁ、北村と宮城ってウチの学校でもかなりヤバい奴らじゃん?」
「うちらでもちょっと関わりたくないレベル的な?」
「そうそう。実際よく知らなかったわけだけどさ、噂聞いてそう思ってたじゃん。でも神山ちゃんのとこに来る北村見てたら、少しイメージ変わったんだよねぇ」
わたしはお茶を飲みながら二人の会話を聞く。
第三者からはそんな風に見えていたのか、と興味深い。
「でもああいう奴ほどキレたらヤバいんじゃないの?」
「そうなのかな。あたし的には宮城の方がよっぽどヤバさそうだけど。他校の奴らともつるんでヤバい遊びしてるって聞くし」
「ヤバい遊びって?」
「知らないけど。クスリとかじゃない?」
それを聞いてぎょっとした。
只者じゃない雰囲気は出ていたけど、そこまでヤバい人だったのか。
だけど彼女の友人はそれを否定する。
「えー、そこまでやるかなぁ。せいぜい喧嘩くらいじゃないの?」
「でもあいつ普通にタバコとか吸ってんじゃん」
「タバコ吸ってるだけでヤバい奴扱い? そんなの、隠れて吸ってる奴なんていくらでもいるじゃん」
すごい会話だな、と苦笑する。
中学生の頃の真面目で優等生な自分は、将来こんな高校に入学するなんて思ってもいなかっただろうな。
この高校に入学したことを後悔するわけじゃないけど、好きな人を追いかけて進学先を決めるなんて馬鹿だったと改めて思った。
二人の会話に上手くついていけず聞き役に徹していると、少し話の流れが変わった。
「ていうか、あんたさっきから宮城のこと庇うじゃん」
「あ、バレた?」
「えー、分かりやすすぎでしょ。何、好きなの?」
毛色が違うような気もするけど、普通の女子高生らしい会話だ。
だけどやっぱり入っていけないな、とわたしは黙ったままでいる。
「好きっていうほどじゃないけどぉ。でも顔は良くない?」
「あー、まあ分かる。でもあのキャラはないわー」
「マジで? あたし全然イケる」
「絶対苦労するに決まってんじゃーん」
「いやぁ、あの顔のためだったら頑張るよー」
「馬鹿じゃん。悪い男に捕まるタイプだ」
悪い男、ね。
見た目だけに惑わされたのだったら、わたしも「馬鹿だったな」で終わっていたのに。
「神山ちゃんからも何か言ってやってよ。馬鹿だよねー?」
「えー、いいじゃん。男は顔でしょ」
ここでわたしに話を振るか。
とてもタイムリーに悪い男に引っかかりましたが。
わたしは困りながら、思ったままに答える。
「根が優しければ、いいんじゃないかな」
見た目はさほど重要じゃない。
上辺だけのキャラクターも重要じゃない。
ということを、わたしは思い知らされたばかりだ。
わたしの答えを聞くと、二人は驚いた表情をした。
そしてすぐに笑い出す。
「マジで!? 神山ちゃん宮城アリ派?超意外なんですけどー」
「やったー。神山ちゃんマジで分かってるぅ」
これは、正直に言いすぎたかもしれない。
もっとありきたりな答え方でもすればよかった、と焦りながら、わたしは大慌てで弁解する。
「性格を一面しか知らないから何とも言えない、っていうことだよ?」
「えー、宮城があれで実は優しかったりしたら、ギャップ萌えすぎてマジで好きになっちゃうんですけどぉ!」
「漫画じゃん」
正直、宮城先輩は良い意味でも悪い意味でも裏表なんかなく、あれがすべてのような気がする。
だけど大興奮の彼女に水を差すわけにもいかず、わたしは苦笑するしかない。
「じゃあ北村はどうなの?」
「顔は悪くはないけど、良くはないよねー。ストライクゾーンの広さによる感じだけど」
「性格はよく知らないけど、根は優しそうじゃん?」
「うん。彼女には一途で大事にしそうー」
結局その話に戻ってくるのか。
わくわくした様子で二人はわたしを答えを待つ。
わたしは食べ終えた弁当を片付けながら答えた。
「タイプじゃないかな」
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