第13話

先生が戻ってくる前に、北村先輩は保健室から出て行った。

その日はもう先輩の姿を見かけることはなく、どうやら放課後を待たずして帰ったようだ。

わたしは午前中の途中から教室に戻って授業を受けた。

昼休みは久々に教室で友達と弁当を食べ、午後の授業も何の問題もなく受ける。

一人で家に帰る放課後も、とても久しぶりだった。



翌日、教室移動のために廊下を歩いていると、向こうから北村先輩と宮城先輩が歩いてくるのが見えた。

関わると面倒臭いことになる。

そう思って来た道を引き返そうと思ったけど、理科室へ行くにはここを通る他ない。

わたしは気付かれないように少し俯いて早足で歩く。


「あ、詩乃ちゃんだ!」


だけど北村先輩は、まるでセンサーがついているようにわたしを見つけた。

わたしは授業に遅れることを覚悟して足を止める。


「どこ行くのー?」

「次の授業が化学なので、理科室に」

「あー、なるほどね。解剖とかするの?」

「いえ、化学なのでただのちょっとした実験だと思いますけど」

「ふーん」


そんなのサボって一緒に遊ぼうよ。

そういう類のことを言われるのだろう、と思っていた。


「じゃあ、頑張ってねー」


しかし先輩はあっさりと手を振ると、「行こう、貴大」と歩き出す。

決して引き留めてほしかったわけではないけれど、少し拍子抜けだ。

そして先輩は、わたしのストーカーをやめた。

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