第7話
その日の放課後、授業を終えてわたしが帰り支度をしている時だ。
あまり話したことのないクラスメイトが、血相を変えてわたしの元に飛んでくる。
「神山さん、何したの!?」
「……え?」
身に覚えがなくて、わたしは困惑した。
気づけば、教室の外にいる人たちが遠巻きにわたしのことを見ている。
あくまでも地味に、平穏に生きていたつもりだったのに、わたし何かした……?
人違いであることを願って「何もしてないと思うけど……」と答えた。
前の席の子も「何かあったの?」と尋ねてくる。
「北村火影が、神山さん探してそこまで来てるんだけど」
ひゅ、と喉の奥が鳴った。
あ、多分それわたしです、わたしで間違いないです。
「……わたし、窓から出て帰るから、もういないって伝えてくれるかな」
「待って、神山ちゃん! マジで何があったの!?」
お願いだから逃げさせてくれ。
急いで荷物をまとめて逃げ出そうとするわたしを、近くにいた子たちが引き留める。
心配してくれているのは分かるのだけど、ならばその腕を離してほしい。
しかし無情にも、「あー!」と聞き覚えのある間延びした声が聞こえてきた。
「詩乃ちゃん、みーっけ」
恐る恐る振り返って見ると、他でもなく北村先輩が、わたしに向かって笑顔でひらひらと手を振っていた。
「一緒に帰ろーよ」
そう言われて断る勇気もなく、誰か断ってくれる勇気を持っている人がいるわけでもなく、わたしは売られるようにクラスメイトから北村先輩への献上物として差し出されてしまった。
歩き出す先輩についていくことを躊躇っていると、「どうしたの?」と不思議そうな顔で肩を組まれ、問答無用で隣を歩くことを余儀なくされる。
北村先輩に逆らえる人なんて、この学校にはいない。
先生たちは先日の事件のことで職員会議をしているし、唯一対抗できる宮城先輩に助けを求められるわけもない。
わたしは泣きそうになりながら、北村先輩と一緒に帰らざるを得なかった。
誰も目を合わせようとしてくれない。
何も言わずともみんな自然に道を開け、その真ん中を堂々と先輩が歩いていく。
「家どこ? 近いの?」
「まあ、そうですね……」
「じゃあ、歩き?」
「そうですね……」
どうしてこうなった。
どうしてわたしがこんな目に合わなければいけないのだ。
この学校の生徒は何百人といるのに、その中でどうしてわたし?
これが厄日、いやもしかしたら厄年。
「家まで送ってくよ」
「……お気になさらず」
「まあまあ、遠慮しないで」
ストレスで胃がキリキリと痛む。
これもすべてはあの男のせい。
そう思わないとやっていられなかった。
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