第3話

「何か用事があったんじゃないの?」


さっきまでの思考を切るように博樹の目を見て問う。


私が1人でここにいる時間を好むことを知っている彼は、あまりここに来ない。生き急ぐように忙しない私ののんびりした時間を減らさまいとするように彼は、この時間は私の代わりに業務を処理してくれたりする。


本当は、彼はこんなことに関わりたくはないというのに。


昔から、彼の瞳に自分が映っているのが好きだった。本当に昔から。たくさんの人に囲まれる彼に私の方を向いてほしかった。


彼の瞳に映る女が私だけになった時、嬉しかった。私のことを知って欲しかった。気持ちをわかってほしかった。理解者になってほしかった。


彼の唯一になりたいと願い、それが叶った時、芽生えたのは罪悪感だったけど。彼をこんなところまでひきづり落としたという罪悪感はいまだに私を蝕んでいる。


余命宣告されていなければこんなことできなかっただろう。


それでも私はやっぱり彼を手放せなかったから、もう、私はわがままでいることにした。


私は全然優しい子じゃないね。最低の恋人だ。


「鈴丘から伝言。ーー制圧は、成功だと。」


博樹は全然嬉しくなさそうに言う。

やっぱり博樹は優しいから、どうしても嫌なのかな。


それを知りながら私は彼にここにいてとお願いする。


「詳しい報告書は来てる?」


鈴丘の性格上、すごく細かい報告を送って来そうだ。ありがたいけど、面倒なやつ。鈴丘は心配性だから。


「来てる。迂闊には見られないと思って持って来ていないが。」


「ありがと。助かるよ。」


博樹は何も言わない。


やっぱり彼を愛してしまったのは、罪だったと、心から思う。


住む世界が違うのに、こちらに引き込んでしまったから、彼はすごく生きづらいのではなかろうか。


私は愚かだ。


伝えたいことも伝えず、言うべきことも言わず、二重三重の嘘と事実を今もお腹の中に隠している。


私はいつまでも中途半端で、それがすごく嫌になる。


私はいつまでも冷静で、それがすごく嫌になる。死んでしまいたいくらい。


「報告書、読みに行こうか。」


自分の気持ちを切り捨てるように、私は夕陽に背を向けた。


読めない笑みをはく。


昔から自分の感情をコントロールするのは得意だったはずなのに、最近よく揺らいで、困る。


「美紗!」


またか。


博樹に引き倒される。


カラン、と地面に落ちた銃弾を手のひらに乗せる。


「5.56ミリ弾かな。詳しくないからわかんないけど。」


最近、5.56ミリばっかり見る。

どのルートで手に入れたのだろうか。


薬にしても何にしても最近私の把握していないルートの売買が多いみたいだ。はやく、潰さないと。


「あとで鑑定に出す。多分鈴丘が逃した残党だ。」


「いいサプレッサーだよ。撃たれたのに全く気づかなかった。ーー博樹がいて助かった。」


ちょっと狙いが甘いみたいで、即死にはならなかっただろうけど。


重傷を負うことは確かだった。

それが私の場合命取りになることも。


私は短銃を抜いた。


「この近距離じゃ、私は外さないなぁ。」


白煙がちょっとにおう。でも嗅ぎ慣れたにおいだ。

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