第13話

「美人で有名な人と付き合うのって大変ね」



「大変だと思ったことはないけど、まぁ外野は鬱陶うっとうしいかな」



彼女に近付こうとする男を全員排除したい伊吹にとって、それは切実な問題だ。



小さく溜息をつきながら、通学鞄の中から取り出した教科書やノートを机の中へと入れていく。



それを見るともなく見ていた隣の女子生徒が、



「ふーん。そういうものなの? まぁ、女の子の気持ちが分からないとかの悩みがあったら相談に乗るわよ。隣の席のよしみってことで」



相変わらずの人懐っこそうな笑顔でそう告げた。



「あぁ、うん。ありがとう」



やたらと媚びてくる他の女子とは違う雰囲気をまとう彼女を突き放す理由が見つからなくて、伊吹は調子が狂いながらもとりあえず頷く。



言われてみれば確かに、都古が何を思っているのか分からないことが多いので、彼女を幸せにしたい伊吹としては、女子の意見というのは有力な情報になるかもしれない。



隣の彼女のことを信用しているわけではないし、女友達をつくるつもりなんてさらさらないが、



(……確かに、同じクラスの中に会話が出来る人がいるのって、ちょっといいかも)



心のどこかでは、やはり依央のように気軽に話せる相手が欲しいと思っていたのか、伊吹の考え方が少しだけ変わった瞬間だった。

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