第12話

「……」



突然何の用なのかと、警戒心たっぷりの眼差しで隣を振り向いた伊吹に、その女子生徒は人懐っこそうな笑顔をぱぁっと浮かべる。



「なぁんで男子ってすぐそういう話に持っていこうとするんだろうね? 同じ男子としてどう思うよ?」



「……知らない。知りたくもないから、何も教えて欲しくない」



都古以外の女子と関わるなど、伊吹にとっては論外なことなので、なるべく冷たく言い放った。



しかし、隣の彼女はめげない。



「朝倉くんってさ、普段と市川先輩の前にいる時とで全然雰囲気違うよね?」



「君に、僕の何が分かるの?」



「去年も同じクラスで、隣の席だった期間があるんだけど覚えてない?」



彼女は自分の顔を指で差しながら小首を傾げたが、



「覚えてないというより、君の存在を認識すらしてなかった」



伊吹はぷいっと顔を背けた。



「あはは! だよね、うん。気付いてたけど。その様子だと、去年の自分のクラスメイトのことほとんど覚えてないんじゃない?」



「……そもそも、クラス替えなんて本当にしたのかなとすら思ってるよ」



「きゃはは! ほとんどどころか全員じゃないの!」



何がそんなに面白いのか、隣の彼女はお腹を抱えて大笑い。



「ミヤに見惚れたことのある男の顔と名前は全員覚えてるから、このクラスでも覚えてるヤツは何人かいるよ」



もちろん、伊吹の言うそれには後ろの席の男子生徒のことも含まれている。

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