第11話

「朝倉ってさ、市川先輩と付き合ってるんだろ?」



自分の席に着いた時、後ろの席にいた同じクラスの男子生徒にそんな声をかけられた。



「“あの”ってどういうこと?」



こういう時、大抵は悪い意味の言葉でしかないと経験から悟った伊吹は、相手を睨みつけるようにして振り返る。



しかし、相手は臆する様子を見せず、



「校内一の美人で有名な、ってこと。年上で色っぽいし、恋愛経験も豊富そうだし……色々教えてもらってるんだろ?」



ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。



「やっぱあれだけの美人ってさ、ベッドで乱れてる時も美人のまま? それとも可愛らしい感じで甘えてきたりするの?」



「……ミヤをそういう目で見るな。次、変なこと言ったら両目にペン突き刺すぞ」



脅しではなく本気でそうしてやるつもりで、怒りで震える右手でペンケースを握り締めた伊吹を見て、



「なんだよ。とっくに童貞卒業してんだから、恥ずかしがることないだろ。減るもんでもねーし」



つまんねーヤツだな、とボヤいた男子生徒は、ふいっと彼から顔を背ける。



(やっぱり友達なんて要らない。不快なだけだ)



はぁーっと露骨に大きな溜息をついてペンケースを机に置いた伊吹の隣の席にいた女子生徒が、先程のやり取りを聞いていたのか、



「やだよね、あーいうの」



彼に小声でコソッとそんなことを伝えてきた。

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