第90話

――同じ頃、都古たちの通う学校の中等部のとある教室では、



「くしゅんっ!」



「どうした、朝倉。風邪かー?」



「いえ……すみません、大丈夫です」



授業中に大きなくしゃみをした伊吹が、教師に心配されていたとかいなかったとか。



(誰か噂してる……? 都古先輩だと嬉しいけど……そんなわけないか)



今頃はテーマパークで楽しんでいるであろう都古へと想いをせつつ、



(もし都古先輩をナンパするヤツがいたら……呪う)



彼女に近付こうとする敵の姿も想像する。



その時、ノートの上を走らせていたシャープペンシルの芯が、ボキッと音を立てて折れた。



「……チッ」



小さく舌打ちをしながらシャーペンのノック部分をカチカチと数回押して芯を出し直していると、



「!」



そのイライラとした様子が怖かったのか、伊吹の前後左右の席にいるクラスメイトたちの肩がびくっと小刻みに跳ねる。



彼の不機嫌の原因が、今日都古がこの学校の敷地内にいないからだというのが分かっているので、



「……」



チラチラと伊吹の様子を気にしつつ、都古が無事にバス遠足から帰還してくれることを切に願ったのだった。

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