第86話

「小テスト……?」



伊吹は一瞬ポカンとした後、



「……あははっ! それは確かに嫌ですね」



意味を理解して、思いっきり噴き出した。



「でしょ? 定期試験ほど重要じゃないけど、かと言って手抜きは出来ないし」



都古の学年の英語科の担当教師が、バス遠足で浮かれて勉強が疎かにならないようにと、あえてバス遠足直後に小テストをすることに決めたのだ。



赤点を取ると、どんな嫌味やお説教が飛んでくるか分からない。



そんな、ネチネチした性格の男性教師なのだ。



「じゃあ、小テストのことは忘れて楽しんできてください。あっ、僕と先輩のお揃いのお土産は忘れないでくださいね!」



「ふーちゃんもね。三人でカチューシャ付けたいって言ってたよ」



「えぇ、カチューシャかぁ……」



渋い顔をしながら“うーん”と唸る伊吹がおかしくて、



「ふふっ」



都古は思わず笑い声を漏らした。



そんな都古の横顔を、伊吹がじっと見つめる。



その視線に都古が気付き、彼の方を振り向いて、



「何?」



「あ、いえ……やっぱり、都古先輩は笑ってる時が一番可愛いなって」



恥ずかしそうにはにかみながらのその言葉に、



「……!」



都古の顔に熱が灯る。



「……前言撤回です。今のその顔、めちゃくちゃ可愛いです」



都古を真っ直ぐに見る伊吹の瞳が、また熱をはらみ始めた。

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