第85話

そしてまた、熱をはらんだような、いつもの真剣な眼差しで真っ直ぐに都古を見つめてくる。



「今日も、僕の知らないところで先輩が誰かに告白されるんじゃないかとか考えると……辛くて」



「そ、そんなこと……」



ない、と言いかけて、やめた。



今まで、こういったバス旅行や修学旅行などで、出かけた先で男子から告白されることはよくあったから。



全て、丁重にお断りをしてきたけれど。



「だから、せめて送迎だけはさせてください」



こんな早い時間に自宅前こんなところまで来てもらって、今更断ることなんて出来ない。



「ありがと」



ここはお言葉に甘えることにした。



二人で並んで最寄り駅までの道を歩きながら、ちらりと伊吹の顔を盗み見る。



前を見ていると思っていたのに、こちらを見つめていた彼と目が合い、



「……!」



都古は慌てて俯いて顔を背けた。



「都古先輩」



「な、何?」



「……まだ、辛いですか?」



「え……」



伊吹の言っている意味が分からなくてまたすぐに顔を上げる。



「今日は、嫌なことは忘れて楽しんできてくださいね」



そう言って寂しそうに微笑わらう伊吹の顔を見て、俊のことを言っているのだと気付かされた。



けれど、



「大丈夫よ。英語の小テストが控えているけど、今は考えないようにするわ!」



あえて話題を逸らしつつ、都古はニヤリと笑ってガッツポーズを決める。

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