第84話

――そして翌朝。



この日は学校での集合時間がかなり早めに設定されていたので、都古ももちろん早起きして出かける準備をして――



「いってきまーす!」



元気よく玄関扉を開けると、



「おはようございます、都古先輩」



「……え」



門の外側で、制服姿の伊吹が何故か爽やかな笑顔で立っていた。



「なんで……?」



「こんな人通りの少ない時間帯に、先輩のような可愛い女性が一人で出歩くのは危険なので。僕がご一緒します」



「私、朝倉くんが思ってるほどか弱くないわよ?」



この目立つ容姿のせいか、心配性な父と兄に幼い頃から護身術を叩き込まれていたから、腕っぷしには自信がある方。



現に、これまで自身が痴漢や不審者に遭遇した時、または誰かが被害にあっているのを見つけた時に、都古一人で取り押さえた経験が何度かある。



都古が過去に付き合っていた彼氏たちにフラれた原因が、その取り押さえ現場を見られたからだというのも、いくつかある。



伊吹が都古のそんな姿を見て幻滅してしまわないように……幻滅されて自分が傷付くということを回避するために、今のうちに彼に知らせておかなければならない。



「返り討ちにしてやるから、心配は要らないわ」



「いえ、僕が言っているのはそういうことではなく……」



伊吹は一瞬、酷く呆れた表情を見せてから、俯いて大きな溜息をひとつついた。



「他の男が、都古先輩に近付くのだけでも嫌なんです」

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