第87話

「え、ちょ……見るな、バカー!」



都古にしては珍しいその言葉遣いの悪さに、



「照れてます? そういうのも凄く可愛いです」



伊吹はひたすら嬉しそうに笑うだけ。



「うぅ……朝倉くんなんて……」



もう知らない! と都古は言いかけたが、



「……嫌い、ですか?」



途端に伊吹があまりにも悲しそうな顔をするので何も言えなくなってしまい、



「先輩に嫌われたとしても、僕は都古先輩が大好きです」



「……っ」



そして、結局は彼のペースに巻き込まれてしまう。



彼を突き放すことも受け入れることも、どちらも出来ないでいる都古は複雑そうな表情を浮かべたが、



「あ、あの……返事はまだいいので」



都古にキッパリとフラれることを何よりも恐れているらしい伊吹が、慌てて付け足した。



「都古先輩の気持ちがちゃんと決まるまでに、僕も覚悟を決めておきますから」



都古の方を見ることが出来ず、けれど真っ直ぐに前を見据える伊吹の視線の先に最寄り駅が見えてきて――



「……絶対、先輩に好きになってもらえるように頑張ります」



ぽつりと呟かれた彼の独り言は、都古の耳にもしっかりと届いていた。

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