第81話

『朝倉くんだって、私の大事な幼なじみよ』



そう思っているのは本当なのだが、



『僕は都古先輩のこと、一人の女性としてとても大切に想っています』



彼の気持ちに触れれば触れるほど、彼にどう接していいのか分からなくなる。



トーク画面を開いたまま返事に困っていると、



『いつか都古先輩に男として見てもらえるように頑張りますから。それまでは友達としてでいいので、傍にいさせてください』



そんなメッセージが連投されて。



『うん。分かったわ』



都古は短くそれだけを送信して、そっと画面を閉じた。



スマホを目の前のテーブルの上に静かに置き、大きく長い溜息をひとつついてから、



「“好き”って、どんな感じだっけ……」



ぼそりと、そんな独り言を呟く。



俊のことは、今も確かに好き。



彼のことを思い出しただけでまた寂しさが込み上げてきて、涙が出そうになるくらいに。



だけど、伊吹は……こちらの都合などお構いなしで、いつも真っ直ぐにぶつかってきて、そんな彼を鬱陶うっとうしいと思いつつも――一緒にいて何故かホッと安らげるのは、気のせいではないはず。



突き放そう、と何度も考えたし、しようとした。



けれど、伊吹の悲しそうな顔を見ただけで、何故だか胸が締め付けられるように苦しくなる。

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