素顔

第73話

――その翌日。



一晩寝たら嫌なことは忘れられるタイプの都古でも……



「ミヤちゃん!? どうしたの、その顔!?」



「ん、ちょっと……」



泣き腫らしてバンバンに腫れてしまった顔のまま、学校へ行くことになってしまった。



「都古先輩……」



風香と共に都古の席へとやって来ていた伊吹も、流石に今日の彼女の顔を“可愛い”と褒めることは出来ない。



「もしかして、シュンサンと何かあったんですか?」



そして、



「……っ」



俊の名前を聞いた途端、また都古の瞳がみるみるうちに潤んでくる。



フラれたのか……と、風香と伊吹は同時に直感したが、



「ほら、ミヤちゃん。おいで」



次の瞬間の風香の行動は素早かった。



椅子に座ったまま俯く都古を、両腕でしっかりと抱き締める。



「ふっ……ふーちゃん……!」



都古は風香の胸に顔を埋めつつも、しっかりと涙は堪える。



そんな、朝から抱き合う二人を見ていた伊吹は、



「……」



両腕を大きく広げたポーズのまま、黙って都古を真っ直ぐに見つめた。



「ん? 何してるの、朝倉くん」



それに気付いたのは風香で、



「いえ。都古先輩を抱き締める順番待ちをしているだけです」



伊吹は至って真面目そうな真顔でさらりと答えた。



「どんなに待たれても、そっちには行かないわよ」



都古が呆れた眼差しを伊吹へと向けて、



「えぇー。残念」



伊吹は彼女の瞳から涙が引っ込んだのをしっかりと確認してから、安心したように優しげな笑みを浮かべる。

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