第69話

しばらくしてから、本当に兄が迎えに来てしまい、



「おい。歯ぁ食いしばれ」



「うぐっ!」



玄関で出迎えた俊の腹に、右京の渾身の拳が容赦なく入った。



低い呻き声を上げながら床にうずくまった俊の向こう側から、



「都古。迎えに来たぞ」



小学校での仕事終わりでスーツ姿のままの右京が、ふわりと優しく微笑んだ。



足元の俊と自分の兄とを見比べて、



(……やっぱり、お兄ちゃん以上にいい男なんて、この世に存在しないのかなぁ……)



結局、いつでもどこでも都古のことを一番に考えて行動してくれるのは兄だけなのだと痛感する。



(もういーや。一生、ブラコンって言われ続けても)



大好きだった俊にフラれ、自暴自棄になってしまっている都古の思考はそこで一旦ストップしかけたが、



――ピロリンッ……



帰りの兄の車の中で、助手席に座る都古のスマホに一件のメッセージが届いた。



それは伊吹からのもので、



『都古先輩! 明日もあの可愛いリップ付けて学校に来てくださいね!』



「あは……」



いつでもどこでも、ストレートに感情をぶつけてくれる伊吹の鬱陶うっとうしさが、今の都古には救いのように思えてしまって。



本当は今日帰宅したら捨てようと思っていたリップだったのに、



(そんな風に言われたら、捨てらんないじゃない)



都古にとって失恋の色となってしまったこのリップを、手放すのは惜しいかもと少しだけど思ってしまった。

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