第68話

「え……」



直後、ずっと潤みっぱなしだった都古の瞳から、ついに限界を迎えた涙がぽろぽろと零れ落ちてきた。



「違うの、俊さん。私、俊さんを拒絶したんじゃなくて……」



――ただ、もう少しゆっくりと関係を深めていきたかっただけ。



そう伝えようとして、



「分かってるよ。都古ちゃんのせいじゃなくて、俺の問題なんだ。ごめんね」



、ふわふわと優しく頭を撫でられて、都古の言葉が止まる。



何も紡げなくなった都古の唇からは、もうリップクリームはすっかりと落ちていて、



「……ピンクのリップ、せっかく似合ってたのに取れちゃったね。本当にごめんね」



俊から、今日一番欲しかった言葉を今更ながらにもらって、



「……っ」



都古は、声を押し殺して更に泣いた。



「家まで送ってあげたいけど、もうこれ以上、俺とは一緒にいたくないよね」



そんな悲しそうな俊の声に、都古は黙ったまま慌てて首を横に振る。



(嫌! まだ俊さんと一緒にいたいのに……別れたくないのに……!)



今、彼と離れれば、それは別れを受け入れたことになってしまう。



それだけは絶対に嫌だったのに、



「今、いっちーに迎えを頼んだから、もう少ししたら来てくれるって」



勝手に兄に連絡してしまった俊を、都古はただ恨めしく思うことしか出来なかった。

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