第64話

「あっ。お世辞か何かと勘違いしてるでしょ」



都古のあっさりとした返しに、伊吹は何だか怒っているようにも見えたが……



都古にとって大事なのは俊の反応。



大好きな彼氏には“可愛い”と思われたいと願うのが、世の女子の常なのだから。



そんな伊吹と風香お墨付きのお守りリップを身に付け、都古はいざ俊の元へ。



ドキドキしながら彼の部屋のインターホンを鳴らすと、



「やぁ。いらっしゃい」



いつも通りの優しい笑顔を浮かべた俊が、出迎えてくれた。



――そう、いつも通り……



「今日も麦茶しかないんだけど、それでいい?」



「あ、うん。ありがとう……」



その会話も、いつも通りで。



「で、急に会いたいなんてどうしたの?」



リビングスペースに通されて、そこでグラスに入った麦茶を振る舞われながら、



「……大好きな彼氏に会いたいと思うのに、理由や用事がないとダメなの?」



ローテーブルの向かいに座った俊を真っ直ぐに見据えた。



「えっ。ダメとかじゃないけど……」



俊はたじろぎ、



「じゃあ、こういうのって俊さんの迷惑になってる?」



都古は彼の本音が知りたくて、少し身を乗り出し気味の姿勢で俊へと質問を重ねる。



「迷惑っていうか……俺、都古ちゃんが絡むと自分の気持ちがよく分からなくなるっていうか」



それは、つまり――……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る