第58話

彼の目を見ることが出来ず、視線は自然と紙袋の方へと落ちていって、



(あ……和菓子だ)



食べたことはないが名前だけはよく知っている有名和菓子店のロゴが見えた。



今日の部活でてる予定のお抹茶にもよく合いそうな雰囲気。



「残酷、とは?」



不思議そうな彼の声に、少しだけ安堵あんどしつつ、



「中途半端に優しくしないで欲しい、とか変な期待させないで欲しい、とか、そんな風に思ったことない?」



紙袋から視線を上げて、伊吹をちらりと見る。



すると、彼はこちらを睨むような鋭い目つきをしていて、



「それって、都古先輩がシュンサンにそういうことをされてるってことですか?」



都古の方へと一歩、ずいっと詰め寄ってきた。



ここまで近付いて見下ろされて初めて、彼の方が都古よりも若干背が高くなっていることに気付かされる。



(少し前までは、私よりちょっと低いくらいだったのに)



そんな関係のないことを考えてしまって、



「……僕は、都古先輩に対してそんな風に思ったことは一度もないです。仮に先輩のそれが中途半端な優しさだとしても、僕は嬉しいとすら思っています」



とても優しげな彼の声に、都古はハッと我に返った。



「変な期待をさせないようにと冷たく突き放されてしまったら、僕のことを見てもらえる機会も減ってしまいますからね」

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