第57話
――その日の放課後。
都古がとぼとぼとした足取りで、部室である茶道室へと向かう途中、
「都古先輩!」
高等部の教室のある棟から部室棟へ向かう渡り廊下の入口で、大きめの紙袋を抱えた伊吹が待ち構えていた。
「朝倉くん……おかえり」
「えへへ。ただいま、です」
相変わらず照れくさそうに微笑む伊吹を見ていると、何だかホッとするような、安心感に似た温かさを感じる。
「楽しかった?」
「まぁ、都古先輩が一緒でなかったのでそんなにですが……あ、これ先輩へのお土産です!」
差し出された紙袋を受け取りながら、
「気を遣わなくていいのに」
「僕が先輩に食べて欲しいって思っただけです」
「……ありがとう」
これから、彼にどう接すればいいのかを真剣に悩んでいた。
今、自分が伊吹にしていることは、自分が俊から受けている扱いと同じなのではないか、と。
中途半端な優しさは、受け取る側からしてみれば辛いことだと分かっているのに。
「ねぇ、朝倉くん」
「何ですか? 今度はプライベートで僕と水族館へ行ってくれるんですか?」
都古を口説くことが彼の通常の会話スタイルになってきているので、そこは軽く流して、
「私の朝倉くんへの接し方って……正直言って、酷い? 残酷?」
いきなり本題を切り出した。
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