第55話

「……好きな人って、そんな風に選んだり決めたりするものじゃないでしょ?」



自分の意思や理屈でコントロール出来るような感情ではないのが、恋の厄介なところだと都古は常々思っている。



そんなに簡単にコントロール出来てしまうのなら、きっと今頃は俊のことでこんなに悩んではいない。



(やっぱり、俊さんとちゃんと話さなきゃ)



今まで自分の気持ちを押し付けるばかりで、俊の本当の気持ちを聞くことから逃げていたから。



「ミヤちゃんって、今まで付き合った人たちのこと、ちゃんと好きだった?」



不意に風香から投げかけられた質問に、



「好きじゃなかったら付き合わないわよ」



都古は“何言ってんの?”と言わんばかりの怪訝けげんそうな表情を浮かべた。



「付き合った期間って、どれくらい?」



そんなの、都古のことを何でも知っている風香なら聞かなくても分かっているはずなのに。



「……一ヶ月、くらい」



気になっていた人から告白されて付き合って、そこから振られるまでが大体一ヶ月ほど。



それより長く付き合ったことがない。



自分は見た目だけしかいいところがなくて、中身は空っぽなのだと言われているような気がしている。



俊とも、最近やっと一月が経過したところで――



正直、いつ振られるのかと思うと怖くて仕方がない。



だから、俊には自分の“好き”をぶつけるだけで――彼が困ったように笑っていることに、気付かないフリをしていた。

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