第53話

実はそんな伊吹から、



『都古先輩、お土産はどんなのが欲しいですか?』



というメッセージが一件届いている。



彼は今日、都古たちより一足先にバス遠足で水族館へ行っているらしい。



今朝、行きのバスの中から送ってきたであろうこのメッセージに、都古はまだ返信していない。



“別にいらないよ”という意味の返事を送りたいのだが、何と返したものかと悩んで今に至る。



時間的にもそろそろ返事した方が良さそうなので、



『大事なお小遣いなんだから、私のことは気にしないで、自分の好きなものに使って』



とりあえず、そう送信した。



送信が完了してしまった後で、



「あ……」



都古はふと、あることに気付く。



今のこの返事は、自分が俊からもらった言葉にとてもよく似ているのだ。



他人事のようなその言葉に、都古は傷付いたばかりなのに。



言い回しを訂正をしようと、必死に頭を働かせて悩んでいると、



『では、僕が美味しそうって思ったお菓子を都古先輩に買って帰りますね!』



“伊吹の好きなもの=都古の喜ぶ顔”と言われたような気がして、



「……!」



不意打ちを食らった都古の顔が瞬時に真っ赤に染まった。



「んっ? なになに、どうしたの?」



都古の表情の変化を見逃さなかった風香が、ニヤニヤと笑いながら身を乗り出してくるのが鬱陶うっとうしい。

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