第52話

どうせ学校で会うから、別に連絡先の交換なんてしなくても……と都古は思ったのだが、



「……あんなに手が震えてるの見ちゃったら、流石に断れないわよ」



都古に向かって差し出されたスマホを持つ伊吹の手が、緊張からか小刻みに震えていて、咄嗟とっさに“ノー”とは言えなかった。



伊吹とは小さい頃からの知り合いだし、彼の気持ちも知らされているのに……



――とてつもない勇気を振り絞って言ったのだと思うと、どうしても突き放せなくて。



「朝倉くんでも緊張とかするのかーってびっくりしたよね」



風香も、普段の伊吹のキャラからは想像も出来ないその反応には驚いたようだ。



堂々として見えるあの態度は、もしかすると彼なりの強がりなのかもしれない。



ただただ生意気なだけかと思っていたが、



(つい、可愛いって思っちゃうのよね……)



時々垣間見える照れくさそうな様子が、どうにも憎めないと思ってしまう。



俊が都古に対してなかなかにドライなので、余計にそう感じてしまうのかもしれないが。



「健気っていうか一途すぎて、何か最近、応援したくなっちゃうんだよね。朝倉くんのこと」



……風香にまでそんな風に思わせてしまう伊吹は、案外策士なのかもしれない。



「応援するなら私と俊さんにしてよ。朝倉くんを応援しちゃったら、調子に乗って一途じゃ済まない事態になりそうだもん」



ただでさえ、彼は重たい空気をまとっているのに。

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