第44話

「行けるわけないでしょう? 私は朝倉くんの気持ちには応えられないんだもの」



ここは絶対に曖昧あいまいにしてはいけないと思った都古は、わざと冷たく聞こえるように言葉を選んだ。



「っ……わ、かりました……」



都古から顔を隠すようにして俯いてしまった伊吹を見て、都古の胸がズキリと痛む。



彼を見ていると、少し前までの自分を見ているような錯覚を起こしてしまうのだ。



……少し前、というか。



俊に対して一方通行な虚しい感じは、今も相変わらずかもしれないけれど。



伊吹の気持ちが痛いほどよく分かるからこそ――



「ほら。ジュース、何飲む? 奢ってあげるから」



こういう時、彼にどう接するのが正解なのか分からなくなる。



自分の時は……とにかく諦められなくて、この想いが通じることなど期待せずに、ただ俊の傍にいられれば、それだけで幸せだと思っていた。



今の伊吹も、あの時の都古と同じ気持ちなのだろうか。



……いや、違う。



多分……今の都古と、同じだ。



そんなことに気付かされたが、



「わ、私はコーヒーオレにしよっと。朝倉くんは? 」



「……フルーツオレで。ありがとうございます、都古先輩」



都古にとって、伊吹が大切な幼なじみであることに変わりはないから。

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