第42話

「どうしてですか? 付き合ってもらえないのは分かっているので、せめて一緒の時間を過ごすくらいは……」



言っている途中で、伊吹の右目から涙がポロリと零れ落ちた。



「!?」



ぎょっとする都古の前で、伊吹は制服の袖で両目をごしごしと擦りながら、



「すみません……こんな格好悪いところをお見せするつもりは……」



ぐすぐすと鼻をすする。



こうなると、ますます周りの視線が気になる。



だって何だか、都古が中等部の後輩をいじめているみたいじゃないか。



「朝倉くん……ちょっと移動しよっか。ジュースでも買いに行こ?」



「ぐすっ……すみませ……先輩……」



未だにぐずついている伊吹を従えて、通学鞄を肩にかけた都古は教室を出た。



本当はこの後、茶道部の活動があるのだけれど。



こんな状態の伊吹を放ってはおけない。



なるべく人通りの少ない廊下を進みながら、



「都古先輩は……どうすれば、僕のこと好きになってくれますか?」



「私は俊さんが好きだから、朝倉くんが何をしてもこの気持ちは変わらないわよ」



「……長身の男性がお好みと言うなら、あともう少し待ってくだされば僕もかなりいい線いくと思うんですけど」



「俊さん、声も素敵なのよね」



「今は僕も声変わりの途中なので変な声してますけど、これももう少し待っていただければ……」



諦めが悪いらしい伊吹と、終わりの見えないやり取りをする。

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