第41話

それでも、伊吹は都古の手を離してはくれない。



「……今更ですよ」



ぽつりと呟くように言った彼は、相変わらず悲しそうな顔をしながら、



「僕の気持ちに気付いてなかったのって多分、都古先輩だけですよ。僕、物凄く分かりやすくアピールしてたつもりなので」



へら、と力なく微笑む。



初めて見る伊吹の表情に、都古は焦りを覚えたが、



「え、あ……ご、ごめんなさ――」



「今のこの状況で、謝らないでください」



掴まれたままの手首を強く引かれて、都古の言葉が途切れた。



その瞬間、痛そうに顔を歪めた都古を見て、伊吹がすぐに手を離す。



「……すみません。都古先輩にフラれる覚悟は、まだ出来ていないので。謝られると、フラれた感が強くて嫌なんです」



「……っ」



都古も、伊吹のその気持ちはなんとなく分かる。



俊に告白した時、都古だってフラれる覚悟なんてしていなかったから。



「都古先輩の気持ちも、ちゃんと知っていますし、分かっています。でも……僕の気持ちも、先輩には知っておいて欲しかったので」



「そんなこと聞いたら、余計に朝倉くんと二人きりでなんて出掛けられないわ」



俊には伊吹のことを、“ただの男友達”だと伝えたのに。



都古に気があることが分かってしまった以上、彼に変な期待をさせないためにも……何よりも、都古のことを信じてくれている俊を裏切らないためにも、映画の件は絶対に断らなくてはならない。

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