第40話

途端に心配そうな顔をする伊吹を見て、



「な、なによ。いきなり何の用なのよ」



年下の伊吹に弱い所を見られたくないと思っている都古の涙は瞬時に引っ込む。



「いや、だから今朝の僕のお誘いの返事を……」



伊吹は自分の目的をはっきりと伝えつつ、



「先輩、大丈夫ですか?」



都古の目を、やはり心配そうに真っ直ぐに覗き込んだ。



「もしかして……シュンサンと何かありました?」



「朝倉くんには関係ないでしょ」



都古が思わずムッとして伊吹を睨み上げると、



「関係ありますよ」



伊吹が、都古の右の手首をそっと掴む。



「シュンサンの立場を奪いたくて、ずっと虎視眈々と狙ってたんですから」



「え……」



「でも、だからって都古先輩の不幸を望んでいるわけではありません。先輩の辛そうな顔は出来れば見たくないので」



そう言って本当に悲しそうな表情を見せる伊吹に、都古は何も言えなくなる。



「好きです、都古先輩」



そして、彼のそんな一言で、



「……っ!?」



都古の顔が一瞬で真っ赤に染まった。



「シュンサンではなく、僕と付き合ってください」



「え、な……えっ?」



ここが放課後の教室で、まだ残っている生徒たちがこちらを見ているのに気が付き、



「ちょっ、人が見てる前で……!」



驚きと恥ずかしさに耐えきれず、都古は後ずさりするようにして椅子から立ち上がった。

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