第38話

伊吹のそんな言葉に、



「……」



都古はまた俯く。



……そんなの、聞かなくったって分かる。



俊のことだから、二つ返事でいいと言ってくれるに決まっている。



(本当は、少しくらい心配して引き止めて欲しいんだけどな)



そうは思いつつも、とりあえず俊にメッセージを送る。



伊吹のことは“ただの幼なじみ”だとか“弟みたいな存在”だなんて言い訳じみた言葉は一切使わず、



『その映画、男友達と観に行ってきてもいい?』



シンプルつストレートに。



本気で行きたいと思っているわけではないけれど、これで俊が“ダメだ”と言ってくれれば伊吹とのことは断り易くなる。



……俊が都古のことをどう思っているのかも、この質問の答え方次第ではっきりと分かる気がするし。



今の俊はきっと訓練中でスマホは見られないだろうから、すぐには返事は来ないだろう。



都古は静かにスマホの画面を閉じると、それをブレザーのポケットへと戻した。



「あれ? 返事来ました?」



俊からの返事を同じく待っている伊吹が首を傾げ、



「まだよ。今は仕事中」



都古は、窓のある方へとプイッと顔を背けたまま答える。



「分かりました。いいお返事お待ちしてますね」



ふわりと妖艶な笑みを浮かべた伊吹が、そのまま教室を出て行って、



「俊さんがいいって言ったら、本当に朝倉くんと行っちゃうの?」



ずっと黙っていた風香が慌てて訊ねた。



「……俊さん次第よ」



都古は相変わらず、寂しそうに窓の外を見つめたまま、ぽつりと呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る