第37話

そんなことをさらりと言ってのけた伊吹の目は酷く冷ややかで、



「……」



しかし、風香には切なさをはらんでいるようにも見えて、黙って見守ることしか出来ずにいた。



「僕と都古先輩はただの幼なじみなんですから、別に疑われるようなことなんて何もないでしょ」



「そうだけど……朝倉くん、あのアニメ観たことあるの?」



とにかく、上手く丸め込まれてしまう前に何とかして断る口実を見つけなければ、と思う都古に、



「ないですよ?」



伊吹は何故か突然、ふわりと優しい笑みを向ける。



「都古先輩と一緒に楽しむためなら、今夜から徹夜してでも公開済みのアニメは全て観るつもりでいます」



「……えっ?」



「ですから、僕が映画の内容についていけないのではという心配をしていただく必要はありません。心置きなく楽しめるように僕、頑張りますから」



「えっ? 映画ってそんな風にして観るようなものじゃ――」



慌てて首を横に振る都古を見て、立ったままの伊吹が少しかがんで彼女と目線の高さを近付けた。



そして、都古の瞳を真っ直ぐに覗き込みながら、



「僕にとっては、何を観るか、ではなく、誰と観るかの方が大事なんです」



ニコニコと優しく微笑む。



「シュンサンにも聞いてみてくださいよ。都古先輩が思っている僕と二人で出かけることについて。彼氏の許可さえあれば、先輩も心置きなく行けるでしょ?」

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