第93話

「え。俺はいいけど……川上さん、帰るのもっと遅くなるよ?」



武巳はまた心配そうな顔をしたが、



「大丈夫。うち、普段は誰もいないから」



対して恵愛は、誰もいない方がありがたいのでヘラヘラと笑ってみせた。



恵愛のその一言で武巳は、彼女を苦しめているのはやはり彼女の家族なのではないかという疑念が強くなる。



訊ねたいことは沢山あるが、



「……そこのファミレス行く?」



武巳はそれらをぐっと飲み込み、店の前からでも看板が見えるくらいの距離にあるファミレスを指差した。



恵愛くらいにお洒落なイマドキの女子高生はファミレスなんて嫌がるかと思ったが、



「あっ、私、チーズINハンバーグが食べたい気分だったのよね」



嬉しそうにニコリと微笑むので、



「!」



武巳の胸が、ドキッと大きく脈打つ。



彼女に対してやましい感情などないはずなのに、どうしてだか居心地が悪い。



けれど……



「よし。じゃあ、そこで食べて帰ろっか」



なんとなく、彼女とまだ一緒にいたいと思ってしまったのも事実で。



二人は手を繋いだりはもちろんしないものの、仲良く並んでファミレスを目指した。

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