第92話
「たけみん。私は一人でも平気よ」
これ以上、彼に迷惑をかけたくない恵愛は、慌てて首を横に振ったが、
「ん、いいよ。一人で帰らせるのが心配で仕方なかったのは本当だし」
武巳はニコッと微笑み、恵愛の髪をふわふわと撫でる。
前に彼に頭を撫でられた時にも思ったのだが、
(美容師さんだから、こうして人の髪に触っちゃうのは職業病なのかしら……?)
他の人にもこんな風に触れているのかな、と思うと胸の奥が少しモヤッとした。
「そもそも、たけみんさぁ。カットするだけなのに今日はやたらと時間かけすぎ! いつもはもっと手際がいいのに、どうしたのよ?」
店長に言われて店の壁時計を見ると、時刻はもうすぐ二十時になりそうで。
少しでも長く武巳と過ごしたかった恵愛としては気にならなかったけれど、
「もっとテキパキ出来てたら、こんなに遅い時間に帰らせることなかったのに」
店長のお叱りはごもっともで。
「すみません、気を付けます」
恵愛の前で叱られた武巳は、とても気まずそうに俯いた。
「川上さん、ごめんね。送ってくよ」
そう言って帰り支度を始めた武巳は、酷く元気がない。
二人で店を出て、
「あの、たけみん」
恵愛は勇気を振り絞って武巳に声をかけた。
「どこかで一緒にご飯食べて行かない?」
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