第90話
相手はまだ女子高生だし、最初は自分が止めねばと思っていたが、
(まぁ、たけみんって見た目はチャラいけど、美紅ちゃん以外に浮いた話なんて聞いたことなかったしなぁ)
もしかすると、武巳にとっては久々にやってきた貴重な春なのかもしれないし。
彼が、同じ職場の女性スタッフや女性客からどんなに迫られても、それに応えたことは一度もなかった。
恵愛が初めてこの店にやってきた時も、本当の目的は知らないが武巳目当てで来店したのは明白で。
彼女が武巳に連絡先の書いた紙を手渡していたのも知っているし、武巳が彼女を全く相手にしていなかったのも見ていた。
だから、この二人はあの時でもう切れたのだと思っていたのに、ここ最近の間に一体何があったのか。
老婆心と野次馬根性でとても気にはなるが、それでも武巳が、美紅以外の女性にあんなに柔らかく笑いかけるのを見たのは初めてだったから。
「まぁ、従業員の幸せはアタシの幸せでもあるしね」
思わず零れた独り言に、
「えっ? 店長、柄にもないこと言わないでくださいよ。気持ち悪い」
武巳がハサミを持つ手を止めて、身震いしながら振り返った。
「アンタ……後で覚えときなさいよ」
「ひぇっ」
「松野くん、思ったことそのまま口に出すとこあるからなぁ」
店長に睨まれて震える武巳と、それを遠巻きに見ながら苦笑しているスタッフたちを見て、
「うふふっ」
恵愛は嫌なことも忘れて、楽しそうに笑っていた。
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