第88話
(じゃあ、やっぱりあの入浴剤はその女の子の私物――)
「川上さん」
不意に名前を呼ばれて、
「えっ?」
恵愛は何事かと聞き返した。
「川上さんだけだよ。俺の家に泊まりに来るような女の子は」
気付くと、トリートメントまで終わっていたらしく、
「座席、起こすね」
顔にかけられていたガーゼを取られ、そっと目を開けると、
「何? ヤキモチでも焼いてたの?」
意地悪そうにニヤニヤと笑う武巳と目が合った。
「なっ……誰がヤキモチなんか!」
「へぇ? じゃあ、俺の何がそんなに気になってたの?」
「入浴剤が……女の子の好きそうなもの使ってたから」
もう聞くなら今しかない、と半ばヤケクソで入浴剤の話を持ち出すと、
「あぁ、あれ……」
武巳は、恵愛の濡れた髪を丁寧に拭きながら、何かを思い出したように苦笑してみせる。
「店長が旅行に行った時の土産でくれて……“美容師は美意識と女子力が高くてナンボ”とか言って、ここのスタッフは全員、男も女も関係なく、あの可愛くてお洒落な入浴剤もらってんの」
「……あ? 何、たけみん。アタシの土産に不満でもあったの?」
離れたところでレジ締めをしていた店長が話を聞いていたらしく、ギロリとこちらを睨む。
「いえ! フローラル系の香りで、毎日女子力鍛えてます! ありがとうございます!」
武巳は慌てて笑顔を浮かべて、店長へと頭を下げた。
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