第82話

「あ、そ、そうなのね……」



相原が着席し、担当の女性美容師が足元のペダルを踏んで高さを調整しているのを見ながら、恵愛は変な汗が背中を伝うのを感じた。



お友達紹介制度は恵愛も初めて来た時に説明してもらったので知ってはいるが(紹介した方も次回は500円引き)、恵愛がドン引いているのはそこではない。



(えっ? 好きな女の子の通ってる美容院を聞いて、実際に通うとか……ストーカーじゃない!? ホラーじゃない!? 美紅ちゃん大丈夫なの!?)



恵愛も大好きなあの子のことが心配にはなったが、よく考えれば彼女には右京という最強の護衛がついているので、まぁ大丈夫だろう、という判断に至る。



「俺も、松野さんみたいなキラッキラのイケメンになりたいっす!」



バックヤードから恵愛のカプチーノをトレーに乗せて戻ってきた武巳の存在に気が付いた相原が、彼にそんな声をかけた。



「あはは、ありがとう。でも、相原くんだってもう十分爽やかイケメンだよ」



恵愛の前にカプチーノのカップを静かに置いた武巳は、ふわりとした爽やかな笑顔を相原へと向ける。



「……?」



恵愛は目の前に置かれたカップに違和感を感じ、ちらりと他の客の方を見た。

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