第81話

「あー、でも私、この美容院に通うきっかけになったのって、たけみんだよ」



店長にカットされている途中の女性客が、自身の被っているカットクロスの中で小さく挙手をした。



「お店の前の掃除してたたけみんのイケメンさに一目惚れして入ったら、まさかの見習いでカットしてもらえなくて。でも店長の技術に惚れちゃった」



「たけみん目当てってのはアレだけど、うちを気に入っていただけて光栄です」



店長はにこやかに笑いながら、そのお客への施術をテキパキとこなす。



その見事な手捌てさばきに目を奪われつつも、恵愛はメニュー表にあったカプチーノの文字を指して武巳へと伝えた。



武巳へメニュー表を返し、ふぅ、と息をつきながら近くのファッション誌に手をのばした時、



「あれっ、川上じゃん。久しぶりだなー」



聞いたことのある声に呼ばれ、恵愛の体が反射的にびくっと強ばる。



恐る恐る顔を上げると、少し離れたところにあるチェアーに、シャンプーを終えたばかりでホクホク顔をした相原が座ろうとしているところだった。



「あ、相原、くん……?」



年中短髪のツンツンヘアをしている彼が、こんなお洒落な美容院に通っていようとは……偏見や差別かもしれないが、信じられない。



「みくたんの幼なじみが働いてる美容院で、みくたんもここに通ってるって聞いたから、紹介してもらったんだ! ここ、お友達紹介で来ると初回は500円引きなんだぜ!」

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