第79話

(近くのファミレスにでも入って適当に時間潰し――)



店の入口にくるりと背を向けた直後、



「お気を付けてお帰りくださいませ。あれ? 川上さん、早いね!」



客の見送りのために店の外まで出てきた武巳に、すぐに見つかってしまった。



「た、たけみん……」



「中で待っててくれてもいいけど、今からどっか行くの?」



イケメン美容師に呼び止められるというシチュエーションだからか、いつもよりも人の視線が集まっている気がする。



早くこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいになった。



「えっと、近くのファミレスでコーヒーでも飲もうかなって……」



早く武巳に会いたいがために物凄く早く来すぎました、とは流石に言えないし。



「コーヒーくらいならうちにもあるから、中でゆっくりしてなよ」



恵愛の方へと近付いてきた武巳は、優しい彼にしては珍しく、強引に恵愛の手首を掴んで引く。



「えっ、ちょっと……」



「今の川上さん、すげー目立つから。変に外うろうろして、ナンパとかされたら大変だろ」



それは、単に恵愛の身を案じてくれているだけなのか。



それとも――



(ヤキモチ焼いてくれてる……わけないわよね。そもそも、異性として意識されてないんだもの)



観念した恵愛は、素直に武巳に従って店の中へ。

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