第75話

シャワーを浴びてお気に入りの部屋着に着替えた恵愛は、洗濯し終えた服を外に干して、



「全部洗っちゃお。気持ち悪いし」



ベッドのシーツや布団カバー、枕カバーも全て外して洗濯機に放り込んで、やはり通常よりも多めの洗剤を投入した。



環境に良くないし、そんなことをしても洗浄力は大して変わらないのは分かっているけれど、どうしても気持ち的にそうしたくて。



マットは布製品専用の除菌スプレーを吹きかけて、枕と布団はベランダに干す。



継父との行為で汚れたというのも理由の一つだが、昨夜一晩、継父が恵愛のベッドで寝ていたのかもしれないと思うと、もう耐え切れなかったから。



「さて、と」



ここまでしてからようやく気分が少し落ち着いた恵愛は、



「……」



やはり、また武巳に会いたいと思ってしまう。



リビングのテーブルに放置していたスマホを、無意識に手に取っていた。



けれど、武巳の連絡先を知らない恵愛が電話をかけたのは、



「あの……すみません。カットの予約をお願いします」



武巳の働く美容院。



希望の日時と担当者の希望を聞かれ、



「あの、どうしても松野さんにお願いしたいのですが」



彼がまだ見習いで、他のスタイリストと同じように施術料をもらいながらカットすることが出来ないことを分かっている上で、電話の相手に懇願した。

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