第65話

突然押しかけてばかりで迷惑かもしれないとずっと気にしていたのに。



そんな風に言われてしまったら、もっと甘えたいと欲深くなってしまう。



「たけみん……あの……」



言いかけて口ごもってしまった恵愛に、



「うん?」



武巳は優しく微笑みながら首を傾げた。



なかなか言い出せなさそうな恵愛を見て、



「今日の晩飯、美味かったよ」



まだきちんと伝えていなかった言葉を、恵愛の目を真っ直ぐに見つめながら伝える。



「そうめんとトーストしか作れない可哀想な俺のために、また何か作りにきてくれよ」



普通なら、料理くらい自分で出来るようになれ、と思うところだけれど、武巳のそれには別の意味が込められているとしか思えなくて。



「えー。仕方ないなぁ。たけみんって苦手なものとかある?」



「アボカドとセロリが苦手かなぁ」



「えぇー。アボカド美味しいのにもったいない!」



そんな、何気ないやり取りをしながら食べるアイスは、今まで食べたアイスの中でも最高に美味しくて。



嫌なことすら忘れてしまえる武巳とのこの時間が、恵愛にとってささやかな楽しみとなるまでに、そう時間はかからなかった。

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