第63話

「美紅は人を見る目はある子だし、俺も実際に一緒に過ごしてみて……川上さんが悪い子だとは思わないし」



武巳の声に慌てて顔を上げると、彼はやっぱり恵愛の胸ではなく、真っ直ぐに目を見てくれていて。



「あ……」



ドキドキする胸を、抑えられない。



武巳を見つめ返したまま動けない恵愛の頬に、武巳はそっと手を添える。



(もしかして、キスされる……?)



思わず身構えたが、こんなにも良くしてくれる武巳になら、自分の全てを任せてもいいかと思えて、ぎゅっと目を閉じた。



何かが顔に近付いてくる気配がして、心臓は早鐘のようになる。



そして、恵愛の唇に、柔らかい何かがグイッと押し付けられて――



「唇に白い粉がすげー付いてるぞ。子供みてー」



すぐに目を開けて確認すると、武巳が苦笑しながら恵愛の唇をティッシュでごしごしと拭いていた。



「……え」



「パッと見は大人っぽい割に、よく見るとすげー幼いね、川上さんって」



「……」



凄く、凄くときめいたのに。



その一言で全てが台無しだ。



ムッとした恵愛は、武巳からプイッと顔を背けると、折角拭いてもらったばかりの口を大きく開けて、大福アイスに豪快にかぶりついた。



「あっ……」



口の中、特に歯茎が物凄く冷たくて顔をしかめながらも、もぐもぐと咀嚼そしゃくして、ごくんと飲み込んだ。

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