第61話

武巳を待つ間に、言われた通りに髪を乾かした恵愛は、



「……」



することがなくなって、ローテーブルの前に体育座りをして武巳を待った。



本当はスキンケアも丁寧にしたかったけれど、ここへ来る途中で寄らせてもらったコンビニのお泊まり用スキンケアセットは恵愛の愛用しているメーカーとは違うもので、あまり納得はしていない。



急に決めたことなので仕方がないと言えばそうなのだが、武巳のようなイケメンと一緒に過ごすのに万全の体制でないのは、何だか腑に落ちない。



「……」



不意に思い出して、通学鞄の中に手を突っ込むと、スマホと携帯用充電器を取り出す。



友達も彼氏も、大切だと思える家族さえもいない恵愛に、誰かからの大切な連絡が来ることなんて滅多にないが、念の為に充電しておこうと思う。



だが、なんとなく嫌な予感がしてメッセージアプリを開くと、通知をオフにしておいた継父からのメッセージが届いていて。



そこには、



『今日も帰ってこないの?』



とあったので、



『友達のところに泊まる』



とだけ返信してからスマホに充電器を挿してテーブルに置いた。



「ふぅ……」



と一つ大きな溜息をついた時、



「何か悩み?」



いつの間にかバスルームを出ていた武巳が、両手に二人分のアイスを乗せてキッチンから恵愛を覗き込んでいた。



恵愛は継父のメッセージに全神経を持っていかれていたので、彼の存在に気付けなかったらしい。

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