第60話

「しっかり肩まで浸かって、きっちり百まで数えました!」



本当はそんなことはしていないが、



「ぶはっ!」



武巳はそれを聞いて盛大に噴き出した。



「よしよし。そんないい子にはこれをあげよう」



立ち上がってキッチンに向かい、冷凍庫から取り出したそれを恵愛の手にポンと乗せる。



触れた瞬間にひんやりとしたそれは、



「……アイス?」



大福アイス(二個入り)だった。



「俺の分は別であるから、二個とも食っていいぞ」



そう言いながら優しく微笑む武巳は、恵愛のことを異性としては見ていないのだろう。



そんな武巳の態度に、嬉しいような虚しいような複雑な気持ちになった恵愛は、



「一緒に食べたいから、たけみんのお風呂が終わるまで待ってる」



受け取ったアイスを、冷凍庫に戻す。



「だから、たけみん言うなって」



苦笑した武巳は、今度は恵愛の両手にドライヤーをポンと乗せて、



「風邪ひくから、早めに乾かしとけよ」



まだ濡れた髪の上にタオルを被ったままの恵愛の頭を乱暴にわしゃわしゃと撫でてから、脱衣所の方へと消えていった。



「なっ……なによー、もう」



急に気恥ずかしくなった恵愛は、ドライヤーを胸に抱き締めて、バクバクとうるさい胸をそっと押さえた。

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