第57話

武巳は、恵愛の作ったおかずを野菜や肉の欠片一粒残らず綺麗に平らげて、



「ふぅ。こんなにちゃんとした夕飯食ったの、一人暮らしして以来初めてかも」



満足そうに、満腹になったお腹を服の上からさすった。



「いやー。川上さんがちゃんと料理の出来る子だったとは驚き」



「……私が特別出来るんじゃなくて、あなたが料理をしなさすぎるだけでしょうが」



呆れた恵愛は、自分の分と武巳の分の食器をひとまとめに重ね、シンクへ運ぼうと立ち上がりかけて、



「あ、俺がやるよ」



「!」



食器を持つ手に、武巳の手が重なって恵愛の胸がまたドキッと高鳴る。



「川上さんは、先に風呂入っておいで。ここは片付けておくから」



「え、でも」



後片付けをするまでが料理だと聞いたことがあるし、恵愛自身もそう思っているのだが、



「いいから。むさっ苦しい男が入った後の風呂に女の子を入れるのもどうかと思うし」



武巳は食器を持つ右手とは反対の左手で恵愛の背中を押す。



「前に川上さんが着てたシャツ、洗濯して俺はそのまま一回も着てないから、今日もそれ着て。バスタオルと一緒に脱衣所に置いてあるから」



問答無用でキッチンから追い出された恵愛は、



「あ、ありがとう。じゃあ、お風呂お先にいただきます」



ぺこりと頭を下げ、



「うん。ごゆっくりね」



武巳は洗剤を付けて泡だらけになったスポンジを片手に、笑顔で手を振った。

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