第56話

米を研ぎ、炊けるのを待つ間におかずを作る。



今日のおかずは、鶏肉と野菜の酢豚風炒めと卵と玉ねぎの味噌汁。



我ながら、その二品だけかよ、とも思うが、そうめんとトーストだけの生活をしている武巳にとっては十分なご馳走なのではなかろうか。



武巳は恵愛が夕食の準備をしているこの時間、風呂掃除をしている。



いつもはシャワーだけで済ませているらしいが、夕食まで特にすることもないし、今日はゆっくり浸かりたい気分だそうで、張り切って掃除をしているらしい。



恵愛も、今日は元々ゆっくりと湯船に浸かりたい気分だったので、お風呂に浸からせてもらえるのはとてもありがたい。



「よし。出来た」



おかずが完成したタイミングでご飯も丁度炊き上がり、その音が聞こえたのか武巳がキッチンに顔を覗かせた。



「出来た?」



「出来た」



「すっげー美味そうな匂い!」



「ふふふっ」



皿やお椀へと盛り付けた料理を、武巳がせっせとリビングスペースのローテーブルに運ぶ。



お茶はとりあえずペットボトルの麦茶をコップに注いだ。



「いただきます!」



「ど、どうぞ」



品数が少ないという文句を言われることも覚悟していたが、武巳はそんな素振りも見せずに目を輝かせながら箸を手に取る。



酢豚風炒めを一口頬張り、



「川上さんって、見た目の割に料理出来るんだ」



「素直に“美味しいです”って言えないの?」



思ったままの感想を述べた武巳を、恵愛がジロリと睨んだ。

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