第55話

「今日は何か野菜だらけのメニューっぽいし、次はガッツリ系で頼む」



「私の料理食べる前から文句つけないでよ。お肉なしの野菜炒め食べさせるわよ」



恵愛がムッとして言い返すと、何がそんなに面白いのか、武巳はプッと噴き出す。



「怒る元気があるなら、大丈夫そうだな」



「……」



武巳の目には、一瞬でも元気がないように見えたということなのだろうか。



……まぁ、確かに“家に帰りたくない”だなんて、何も問題などなければ言わないはずだし。



恵愛はもう何も言わず、武巳も余計な詮索などは一切せず、二人で並んで武巳の部屋へと向かう。



武巳の部屋は前回恵愛が来た時と同じように、綺麗に保たれていた。



キッチンも相変わらず、ものが少なめで。



「たけみんって凄くモテそうなのに、女の影が全くない……」



たまには誰か他の女性が泊まりに来ているのかとも思っていたが、やはりその気配は全くない。



「たけみん言うな」



武巳からピシッとデコピンを食らわされたが、それは前回ほど痛くはなく、



「怒るのそこ!?」



恵愛の傍を通り過ぎて米などの食材をキッチンに運ぶ武巳を、慌てて振り返った。

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