第52話

「……」



恵愛は、店長に呆れられてもニコニコと笑顔を貼り付けたままの武巳の顔を注意深く観察する。



“女に困ってない”



それは、言葉の意味をそのまま取ればサイテーなのかもしれない。



現に、武巳ほどのイケメンなら、女の子なんていくらでも選びたい放題のはずだ。



けれど、武巳の心は――



もし、しか欲しくない、というこだわりが今もまだ強くあるのなら、それはサイテーでも何でもない。



(物凄く一途で……とんでもなく、馬鹿な人)



武巳ことをそう思うと同時に、自分も人のことを言えた義理ではないなと心の中で自嘲しながら、それでも真面目に働く武巳の背中を見守り続けた。



女性客から逆ナンのような声をかけられても、笑顔でそれとなくかわす武巳の姿は、



(本当にサイテーなヤツなら、あんな風に躱したりしないものね)



恵愛には、どうしてもクズ男には見えなかった。

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