第51話

前回のように他所よその店舗へ応援に行っていたらどうしようかと思ったが、今日はちゃんとこの店にいるのが見えた。



気合いを入れて、美容院のガラス戸に手をかける。



――チリンチリンッ……



と鈴の音が鳴って、



「いらっしゃいま――あっ!」



床の掃き掃除をしていた武巳が慌ててそれを中断して出迎えようとして、恵愛の顔を確認した瞬間に動きを止めた。



「松野さん……あの……」



勇気を振り絞ってここまで来てみたものの、何と言えばいいのか分からなくて口ごもる恵愛に、



「俺、上がりまでもう少しかかるんだけど、それまで中で待っとく?」



何かを察した武巳が、にこっと優しく微笑んだ。



「え、あの……お店のご迷惑じゃ」



制服そんな格好で外うろつかれる方が心配で迷惑」



武巳は今度は真顔でバッサリと告げて、待ち合いのテーブル席を指差す。



そこの椅子に、ぺこりと頭を下げながらすとんと座った恵愛を見て、



「ん。いい子」



武巳はまたにこっと微笑んだ。



そんな武巳の腕を、ちらちらと様子をうかがっていた店長(女性)が、がっしりと強く掴む。



「ちょっと、たけみん。アンタ、まさか女子高生と……」



「やだなぁ、店長。俺、ガキに手ぇ出すほど女には困ってないですよ」



ニコニコと微笑む武巳に、店長は呆れて腕を離し、



「そうね……私が思ってるよりもアンタってサイテーみたいね」



やれやれと溜息をついた。

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